を大事にする救急

「ER」のカーター先生を見て

どのような経緯で救急を志したのか教えてください

― 学生時代、学園祭の企画で「学生メディカルラリー」なんてものを企画してから救急の世界に入ったのかもしれません。折しもテレビドラマ「ER」が流行っていたのも背中を押したかもしれません。主人公だったカーター先生の成長を見るのが面白かったですね。カーター先生が医学部生から研修医、専門医へと成長していく過程を観ながら「自分もこうなっていくんだ」っていうリアリティが面白かったです。今はその追体験的なことも過ぎてしまいました。

 

 私自身は、あれよあれよと言う間に学生のうちにACLSインストラクターまで取得し、学生間の救急勉強会のネットワークからも刺激を受けながら救急医療を志すようになりました。郷里の救急事情がよく無いこともあり「出来上がったものよりも、出来上がっていくものからが、学ぶものは多いはず」と倉敷中央病院で救急科後期研修医の第1期生として採用していただき、その立ち上がりを目の当たりにしてきました。

 

実際に倉敷中央病院で目の当たりにされた中で、普遍性が高いなと思った仕組みがあれば教えてください。

― 施設の成り立ちや規模・能力、地域における位置付け、他医療機関との関係性など様々な要因がありますので、一概には普遍性を語るのは難しいかもしれません。 ですが、あえていうならその組織力でしょう。私の知る限り個々人の医師の意見で組織が動くことはなく、組織として体制を整え必要に応じて変えるべき点を変えていったように思います。そのためか不思議と「カリスマ」がいなくてもいい診療ができるようになっていました。 そうすることで、24時間365日、常に高水準の医療が展開でき、JCI(Joint Commission International)のような外部評価認定に値する体制を維持できるのだと思います。

副部長 松窪将平

総合救急部 副部長

鹿児島大学卒。郷里の救急体制をよくしたいという思いで県外での研修を希望。救急体制立ち上げ予定のあった倉敷中央病院へ入職し初期研修医期間を過ごす。同病院の救急科後期研修医の第1期生として、巨大病院の救急科立ち上げを体験しながら研鑽を重ね、救急科専門医取得後、鹿児島市立病院救命救急センターへ入職。平成31年3月より現職。

 

主な活動

外来・救命病棟管理

ドクターカー業務

ドクターヘリ業務

救急隊との共同作業

研修医教育

​救急医は「それを言ったらダメ」

― 救急医としては得意も不得意もあまり無いですね。救急医を目指した時点で「それを言ったらダメ」と思いながら仕事してます。外科系医なので内科は見れませんとか、内科系医なので傷は縫えませんっていうのはナンセンスだと思います。救急医に求められる技能というのは、ある程度は所属する地域や施設によって左右されると思います。となると、個人の得手不得手に関わらず、その状況・環境に応じた技能を求められるのも救急医。どんな研鑽をすると、というより、得手不得手に関わらず「この状況・環境で求められている技能や立ち位置」を感じ取り、応じられることが救急医として持たなくてはならない心構えではないかと思うのです。ですので、得手不得手があっても、そこから解決策を考え出す努力をしなくてはならないと思うのです。救急医の研鑽とはそれを日常的にすることかもしれません。そして色々な環境で得た経験から学んでいき続けるのも研鑽と言えるでしょう。何せ救急外来で診る症例は何一つ同じではないですから。

 とは言え、やはり好みは出てしまうものです。これまでの職場経験から、ドクターヘリやドクターカーなど病院前診療に関わる機会が多かったこと、救急隊との勉強会などを交流する機会も少なからずあったため、そうした病院外診療・連携に関して、他の医師と比べて得意にしているかもしれませんね。

 

現在総合救急部内でCOO(Chief Operation Officer)として活躍いただいていますが、どのようにしたいなど構想があれば教えてください。

― 病気や怪我は24時間365日、時間や場所を選ばずに発生してしまいます。その最初の受け皿となる救急部門を預かる我々としては、病気や怪我と同じように24時間365日、傷病者に対して同じような質・量を備えた医療を提供できるようにしなくてはならないと思っています。「今日は●▲先生が休みなので、今は■★科が手術中ですので、現状では病床満床なので・・・」と言った診療お断りをすることはどこの地域の救急病院でも問題になることが多いと思いますが、これをなるべく無くしたい、と思っています。

 

 これは病院全体にとってのチャレンジですし、救急科という我々の部署にとってもチャレンジです。24時間365日、質・量を備えた体制を目標に何をするか?そのためには病院内において救急科は大きく3つの課題をクリアしなくてはならないと思っています。それは「診療体制の適正化」「診療内容の均一化」「地域・病院内部門としての適材化」です。COOとして最大のミッションは「診療体制の適正化」と考えています。そのためにも所属するスタッフが無理なく働き、適切なできるだけ希望に沿った勤務体系を組むのは大前提(と考えていて)、特に働き方改革法案が施行された現行において、このことをいかに当たり前のようにできるか?と考えています。

 

 そのため当科は完全シフト制勤務としています。従来のような完全主治医制ではないことへの懸念もあるかもしれませんが、これまでシフト勤務も完全主治医制での勤務も双方体験してきた私としては、その心配は不要と思っています。むしろ診療に参加するスタッフが適切なwork-life-balanceを維持しながら診療に参加できる環境づくりを心がけなくてはならないと思っています。ゆくゆくは出産を契機に臨床から離れた医師や、諸事情によりフルタイムで働けない医師など、潜在的なマンパワーを引き起こすことができるのではないかと思っていますし、そうして集まってくるスタッフそれぞれのLifeにも向き合いつつ、組織としてのバランスを取りながらも尊重したいと思っています。そのために既存の枠組みにとらわれず、新しいシステムの導入にも積極的でありたいと考えています。

 

 現在は外来診療のみの対応となっていますが、ゆくゆくは病棟管理も行う上でも、このシフト制は維持することをモットーに計画しています。そのためにも「診療内容の均一化」〜すなわち所属する全てのスタッフが必要とされる同等の医療技術と知識を学び維持する体制作りは大切ですし。内外においても救急科の運営体制を知っていただくことで、より地域医療に貢献できる体制づくりに繋がるものでしょう。地域に根ざす医療を展開する中核病院は様々な部門・診療科が集まる「花びら」のようなものと例えるならば、我々救急科はそれらの部署をつなぐ花軸と思うのです。関係する部門・診療科の方々が活躍し地域中核病院として花開くよう、我々もチャレンジしていきたいと思います。

​患者さんへの向き合い方

― 「受診動機はなんだろう?」対応に行き詰まったとき、自分自身にも相談にくる研修医へもよく投げかける質問です。
 

 研修医から相談されるときに、よくある内容が「対応どうしたらいいでしょう?」というのがあります。多くは検査の解釈や入院適応などの相談ですが、中には「医学的にはできることはないけど、患者さんがどうにも帰るに帰れない」「病院でするべき対応なのか判断に迷う」ということが多々あります。


 そのようなとき、よく「受診動機が何かを考えてみなさい」と指導しています。怪我や体の不調があるためERを受診され、それに対して検査を通して施すべき医療を行うのは当たり前ですが、傷病者はそれだけでは済まないわけです。一人暮らしの方が骨折されたとき、家の生活は維持できるか?ご高齢者の独居や老老介護の方に配慮し無くてはならない医療以外の要素はなにか?元来健康な方と長年の闘病生活をされている方に同じ医療を提供することが本当に良いことなのか?
 

 救急を受診される患者さんの殆どが、我々救急に従事するものに者にとってはほぼ初対面です。ほぼ人間関係0の状態から短い時間でそうした患者さんの既往や受診時の状況・生活背景を伺い、その情報から医療的・社会的ニーズを拾い、新たに関係を組み上げるのはシンドイ。ですがここを的確にアセスメントすることが救急医療の醍醐味の一つであり、いわゆる「社会のセーフティーネット」として我々の真価が問われる場面だとも思のです。
 

 基本的に病院、特に救急で受診することは誰も望まないと思っています。身体的な損失が起き、その人の日常性が崩れることで受診される救急の患者さんへ、我々ができることを一緒に考えていくこと、これはどんな地域の救急でも共通する使命だと思っています。


 「受診動機はなんだろう?」とはすなわち「この方へのベストの対応は何か?」という答えを導くためのきっかけなのでしょう。いつも我々が対峙するのは病であり怪我ですが、同時に患者さんに人生とも向き合っています。いろんな背景を持った症例と向き合う中で、この人の人生にどれだけ医療という点で返せるか?そこに関してのベストな医療を探し出して提供できるようにと心がけています。

 

 若い先生がたは迷ったら立ち止まって考えてみるといいです、この診察や治療・対応を、自分の家族や身内に同じようにできるのかと? ブレない態度で居られるようにありたいと思っていますし、それが自分を生きるということなんだ、と思っています。

私のワークライフ

― 私にとって「医師」というのは自分という人格をかたどる一つの要素です。もちろん、日常において占める割合は大きいのですが、それ以前に自分自身のあり方の一部なわけです。それは他の当部署のメンバーたちも同じです。医療者であると同時に家庭人であり趣味人でもあり、他のいろんな側面の一部でしかないわけです。


 なので、COOとして部署の運営を考えるときも、なるべくそして皆さんの個々の事情を尊重したいと思って対応しています。


 同時に「24時間365日、同じ質・量の医療を提供する」という部署の役割を果たすためにいかにメンバーの負担をかけないようにするかということも考えています。

 

 そのためには部署の勤務だけではなく、教育や講習会の受講などの負担やチャンスの配分にも気を使いようにしなくてはならないと思いますし、他の仕事を僕もサポートするようになるべく配慮しています。


 言い方として語弊があるかもしれませんが、最終的には「楽して良い成果」がでるように心がけています。負担感なく各々がベストなパフォーマンスを展開し、良い医療を提供できるようにすること、そのことが「地場産業ではない、どこでも通用する救急部署」の育成につながると思っています。

 
総合救急部部長 安藤裕貴
医長 丹野翔五
医員 藤井真
社会法人杏嶺会 一宮西病院 ​総合救急部
​(代表)0586-48-0077