1960頃 ミシガン州・イリノイ州で救急専従医が誕生

1968 米国救急医学会(ACEP)設立

1970 シンシナティ大学で最初のレジデントプログラム開始

1971 シカゴ大学ERでPeter Rosenが専従開始

1980 寺澤秀一 トロント大学総合病院救急部へ留学

1981 女医Judith E. Tintinalliが救急専門医取得(ミシガン大学)

1982 寺澤秀一 福井県立病院で北米型ER開設

1983 Rosen's Emergency Medicine刊行

1985 Tintinalli's Emergency Medicine刊行

1986 Emergency Medicine Treatment and Labor act(EMTALA)が制定される

1996 研修医当直御法度刊行 寺澤秀一著

2000 寺澤秀一 福井医科大学救急医学講座教授に就任

2002 寺澤秀一 福井医科大学総合診療部教授に就任

2003 福井医科大学救急部と総合診療部の合体運営開始

2010 研修病院選びかた御法度刊行 安藤裕貴著

2010 安藤裕貴 福井大学救急・総合診療部で専攻開始

2010 寺澤秀一 福井大学医学部地域医療推進講座教授に就任

2012 安藤裕貴 名古屋掖済会病院救急科に赴任

2013 ERでの非典型症状にだまされない!救急疾患の目利き術刊行 監修:寺澤秀一 編集:安藤裕貴

2016 ERのTips刊行 安藤裕貴著

2017 内科当直医のためのERのTips ジェネラルケースのディープアプローチとエビデンス刊行 安藤裕貴著

2018 ACEP設立50周年

2018 一宮西病院 総合救急部 救急科開設

2020 一宮西病院 総合救急部 救急総合診療科開設

米国の救急医学は、第二次世界大戦後の経済発展と格差の拡大、交通網の整備による社会構造の変化を背景とする、救急患者の激増を契機に誕生しました[1]。それまでは日本の多くの救急外来と同じように、各診療科の医師が救急外来業務を行っていました。1960年頃から救急専従医がミシガン州やバージニア州に誕生し、彼らはEmergency physician(救急内科医)と呼ばれ、やがて全米に広がっていきました。

米国救急医学会(ACEP)が設立されたのは1968年のことです。

救急医学の父と呼ばれ、救急医学のハリソンこと「Rosen's Emergency Medicine」の著者であるPeter Rosenは、その黎明期に救急専従医となりました。

1) 日比野誠恵、堀進悟.米国救急医学の現状と本邦のER型救急医療.日救急医会誌. 2010; 21: 925-34

Peter Rosen
Judith E. Tintinalli

一方、救急医学の母といえば「Tintinalli's Emergency Medicine」で有名なJudith E. Tintinaliです。彼女は1981年にミシガン大学で救急専門医を取得するとデトロイト総合病院で働きはじめました[2]。Dr.Tintinalliはその後2010−2011年度におけるACEPの会長を勤めています。

その頃、日本からカナダのトロント総合病院で留学研修をしていたのが寺澤秀一でした。寺澤は北米滞在中にモントリオール、デトロイト、デンバーのERを見て回り、そこでRosenやTintinalliと出会い、彼らの築き上げたERで北米型救急の成熟過程を目の当たりにしました。

北米型救急を学んだ寺澤は、帰国後、故郷の福井に戻り、福井県立病院に赴任し、北米型救急を実践するERを開設しました。

2) History, Emergency medicine, Wayne State univeristy http://em.med.wayne.edu/history

北米型救急​

総合救急部

北米型救急​の歴史​と

総合救急部​

総合救急部の目指す北米型救急​の特徴

寺澤は福井県立病院で北米型救急を実践しながら、後進の育成を続けていきました。中でも救急外来での失敗談から学んだことをまとめた「研修医当直御法度」は、初版から20年を超えても、多くの研修医・指導医たちに色あせない輝きと、ER診療の奥深さを教えています。

​1999年に福井医科大学に赴任すると、翌年には救急医学講座教授となり、大学病院としては珍しい北米型救急を実践する新たな拠点が誕生しました。

2003年には総合診療部教授を兼任し、全国で初めて救急部と総合診療部が合体運営される部門となります。日勤帯に忙しい総合診療医と夜間や時間外に忙しい北米型救急医が、お互いを補完し合う形をとることになりました。

寺澤 秀一

1)ER​の専任医師であり、各科の業務を兼任しない

​2)手術、入院患者、専門外来には関与しない

3)全ての救急患者(全ての科)の初期診療を行う能力を有する

​4)上記3の初期診療とは、診断・初期治療・advanced triage(disposition)をいう

ER検討委員会,ERシステムFAQ,ERドクターとはどのような医師を指すのでしょうか?http://www.jaam.jp/er/er/er_faq.htmlより

​安藤 裕貴

研修医時代に「研修病院選びかた御法度」を執筆した安藤裕貴が、寺澤のもとで北米型救急を学び始めたのは2010年のことでした。寺澤が始めた北米型救急は次第に全国から注目を集め、救急志望者だけでなく総合診療志望者などの多くの若手ジェネラリストが集う場所となっていました。

そこでは最新のエビデンスにキャッチアップするための学習法だけでなく、医師として大切な”患者目線の医療とは何か”、”北米型救急の地域に果たす役割の大きさ”を寺澤から学ぶのでした。

安藤はその後、大都市圏で寺澤門下生が活躍していた名古屋掖済会病院救急科へ移り、その血脈を受け継ぐ傍ら救急診療にまつわるエビデンスを集めた「ERのTips」や、当直で困っている全国の若手医師のために「内科当直医のためのERのTipsジェネラルケースのディープアプローチとエビデンス」を執筆しました。

ACEPが創立50周年を迎える2018年7月、寺澤秀一を臨床教育顧問に、安藤裕貴を部長として、一宮西病院に総合救急部が誕生します。

北米型救急​とER型救急の違い

日本の救急医療にはICU型のいわゆる日本型救急や、各科あいのり型救急、ER型救急、北米型救急が混在しています。ER型救急は北米型救急と似ているようですが、ER型と自称していても救急車だけしか受け入れていない病院もあれば、産科や小児科の診療受け入れ制限を行っている病院もあります。またER型でも救急専従医がおらず、各診療科が当番で勤務していたり、研修医だけで診療しているのが実態の病院もあります。またER型救急の中には専従する救急医がいても、入院診療を同時に行っているためにワークライフバランスが維持できず、モチベーションを失いやすい病院もあります。救急専従医が高いモチベーションを維持しつつ、高度な知識とベーシックで安定した技術を、ワークライフバランスを保ちつつ、全ての患者に提供するのが北米型救急とER型救急の違いということができます。

日比野誠恵、堀進悟.米国救急医学の現状と本邦のER型救急医療.日救急医会誌. 2010; 21: 925-34等より作成

 

なぜ北米型救急を選択するのか

前述のように日本の救急医療には日本型救急や、各科あいのり型救急、ER型救急、北米型救急が混在しています。われわれ総合救急部は、なぜ北米型救急を選択するのでしょうか。

”Medicine should begin with the patient, continue with the patient, and end with the patient. ”

 ー 医学は患者と共に始まり、患者と共にあり、患者と共に終わる ー ウィリアム・オスラー

この答えは患者にあります。ここでは分かりやすくするために、日本型救急と北米型救急に分けて説明していきます。日本型救急の医師は、救急搬送された患者を診察し、自ら主治医となって集中治療を施し、退院まで診ていきます。一方、北米型救急の医師は病棟診療がありませんから、ICUや病棟で患者の診療を行うことはありません。まして退院する姿をみることもありません。

このように言葉にすると、日本型救急の医師は入院から退院まで自己完結するため、自己完結型救急とも呼ばれます。北米型救急の医師は、救急外来で目の前の患者に集中治療や緊急手術が必要なのか、一般入院でよいのか、帰宅させてよいのかを判断し、必要に応じて専門診療科にコンサルトを行います。そのためか”振り分け屋”とか”トリアージ屋”と揶揄されることがあります。

日本型救急では多くの場合、主治医制をとっています。自分がいないときは代理の医師を立てることでチーム制であることを主張したりしますがメインの医師は決まっています。最初から最後まで責任をもって患者をみる、ここにやりがいを感じる医師も多いはずです。また、世間の人から見ても「責任のある医師のあり方像」に近いのは日本型救急のスタイルではないでしょうか。

北米型救急の医師は、シフト制で働きます。できるだけ多くの時間帯をカバーしながら、救急外来専従で働く医師が交代勤務をしています。

それぞれが診ている患者は、日本型救急では基本的に重症者のみとなります。あらゆる救急患者の入院をすべて診てしまうと主治医として担当している患者数が大きくなりすぎて機能できないためです。北米型救急では重症から軽症まであらゆる患者を診ています。当然ながら対象となる患者数は膨大な数です。膨大な患者数を診るが故に、入院診療をしていると手が回らないのです。

結果として日本型救急システムの病院では救急外来を受診する患者は限定的となり、救急搬送数はそれほど多くありません。一方で北米型救急システムの病院は救急搬送数もウォークイン患者数も膨れ上がり、ハイボリュームセンターと呼ばれるようになります。

 日本型救急 ー 少数の重症患者が対象

 北米型救急 ー あらゆる患者が対象

これをさらに突き詰めていくと、日本型救急と北米型救急であ救急外来としての役割がや使命が違うことに気づきます。日本型救急では目の前の重症患者に注力することが役割であり、使命です。その代わり軽症者や中等症の患者は診療そのものを制限して「不適切な受診」といて受け入れを断ることになります。救急隊が受け入れ要請をしても、重症でなければ地域にある他の病院へ搬送を指示することになります。救急外来の医療資源に余裕があれば軽症者や中等症の患者でも受け入れることはできるでしょうが、基本的には重症者が対象となります。

実はここに潜在的な問題が隠れているといわれます。救急搬送要請には応需率という言葉があります。もし日本型救急スタイルで重症を受け入れる拠点病院が地域に1ヵ所しかなかった場合のことを考えてみましょう。救急隊の現場での判断はアンダートリアージ(過小評価)を避けるために、オーバートリアージをするのが原則です。総務省の統計では救急隊による現場評価の70%は重症と評価されています。つまり70%の救急車は重症を受け入れる病院へ搬送要請がなされることになります。当然ながら拠点病院は常に忙しい状態になり、救急室のベッドがなければ、すぐに応需拒否がなされます。受け入れを断られた患者の評価は重症です。次に救急隊が応需要請をするのは、重症をみる機能の乏しい救急病院です。考えられるのは、無理して受け入れるか、「そんな重症は受け入れられない!」と断るかのどちらかです。・・・そうなのです。たらい回しが始まっているのです。

日本型救急のスタイルを貫いてしまうと、たらい回しが起きやすいのがわかります。その重症と評価された患者はいったいどこの病院が受け入れたらよいのでしょうか。しかも救急隊が70%も重症と評価しながら、軽症と評価していた中に「実は重症であった」というケースが8%程度あります。救急隊が「軽症ですから受け入れお願いします」と言われ受け入れた重症をみる機能の乏しい病院では、どうなっているでしょう。軽症だから、と見逃されるか、対応ができずに重症を受け入れる拠点病院へ連絡し、転院させようとします。しかし、拠点病院は応需拒否の状態ですから転院もできないかもしれません。患者は適切な医療を受けられずに不幸な転機をたどってしまうでしょう。

北米型救急スタイルでは、軽症や中等症だからという理由での受け入れ拒否はありません。もともと患者数が多くても診療が継続できるように医師は働いています。負荷が少なくなるように時間で区切って、シフト制で勤務しています。普段から短時間のオーバースペックでも耐えられるように教育されており、たとえ災害のような多数傷病者が発生してもよいようにしています。救急隊の現場活動での評価に限界があることもよく知っています。たらい回しがおきないのです。

 日本型救急 ー たらい回しが起きやすい構造

 北米型救急 ー たらい回しを起きにくい構造

さらに言及していくと、自己完結型の日本型救急の医師は、あたかも一人で医療を施し患者が治癒していく過程を診ることができます。患者や家族から直接お礼を言われることも多いでしょう。救急外来を受診したときの重篤な状態を見ていた家族からすると、退院して自宅へ戻ることができるようになるなんて夢のようでしょうし、それを主治医の先生が頑張って治療してくれたという思いは、個人的な感謝に繋がりやすいものです。また、それだけ重篤な患者を診るのが慣れていない他科の医師からすると、自己完結で診てくれる医師は頼もしいですし、やはり「診てくれてありがとう」の一言がいいやすいものです。そのため日本型救急の医師は自己満足度が高い環境にあるともいえます。

ところが北米型救急の医師は救急外来でしか患者の対応をしません。重篤な患者の多くは意識障害を伴っていますから、入院して治療のあと意識が回復しても北米型救急医のことは覚えていないか、覚えていても記憶は新しい主科の医師に上書きされていることでしょう。北米型救急医は患者や家族から感謝されるということは、ほとんどありません。他の科の医師にはコンサルトという形で入院や手術をお願いするわけですから、他科の医師からすると「突然呼び出されて、患者を振り分けてきて、自分たちでは入院も診ない。入院を診るのがどれだけあ大変か分かっているのか」と感謝どころか愚痴を言われることもあるものです。誰かに感謝されたくて医師になったわけではないでしょうが、感謝されるというのはモチベーションを高める大きな要素であるのは間違いありません。

 

では北米型救急医の高い満足度はどこにあるのでしょうか。

 

北米型救急医が助けている相手は大きく分けて3つあります。1つは救急外来で救命を必要としたり、不安で来院する「目の前の患者」です。これはどの診療科でも同じことでしょう。2つ目はシフトを組んで昼も夜も勤務することで慣れない救急診療や当直をするストレスを回避でき、体力を温存して翌日の手術や業務に臨める「他の診療科の医師」です。3つ目は継続して救急医療を展開することでたらい回しが起こさず、どんな繁忙期でも断らない救急を貫徹して安心を与える「地域社会」です。

 

「目の前の患者」や「他の診療科の医師」は比較的わかりやすいかもしれませんが、「地域社会」を助けているという自覚は感謝されることもありませんから、満足度を得にくいため、これを理解するには人間的な成熟が必要かもしれませんが、これを理解した北米型救急の医師は、自己満足のために自分のやりたい医療を振りかざすのではなく、「地域社会」といった一歩高い視点をもって、そのために何が必要か?と考え、自分を変えることができる医師でもあります。

 日本型救急 ー 自己満足のために自分のやりたい医療をする

 北米型救急 ー 地域社会のために自分を変化させて働く

多くの患者の心身の最大幸福を願っているのはどちらも同じですが、より多くの患者を受けいれ、救急外来で最適化をはかりつつ全体をマネジメントし、目の前の患者に対しては高度な判断力と救命力を発揮しているのが北米型救急の医師といえます。だから総合救急部は北米型救急を選択するのです。

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